アカマツ物語-その1
すらりと背が高く、どことなく、気弱げで、上品なたたずまいの美しい木です。
数年前から元気を失くしてきているのはわかっていたのですが、私にはどうすることもできません。
ただ、パトロールの行き帰りに、立ち寄って、その木肌をそっとなでて、「頑張ろうな、お互いに。」と心の中でつぶやくのが、私にできる精一杯のことでした。
青梅の杜でも多くのアカマツが松枯れ病の為に枯死し、残ったマツも、陽光を一杯に浴びることのできる環境が、少なくなったせいか、元気な個体は少なくなっています。
尾根に緑の枝を伸ばし、風に葉をそよがせる松の姿は、昔日の里山を彩った、重要な景観要素の一つでした。
その松林が、日本中で激減しており、ここ青梅の杜でも徐々にその姿を消していこうとしています。
昨年、12月23日に青梅でも強風が吹きました。
心配になって駆けつけると、案の定、私の大好きな
そのアカマツも、大きな枝を一本折られていました。
元々、枝の少なかった個体なので、さらに樹勢は
衰えていくでしょう。
何とかしてやれないものかと、悲しい気持ちで、
その木の周りを、ただおろおろと、うろついている時、
ふと、足元に転がっているマツボックリに気づきました。
そうだ、この木を助けてあげることは、できないかもしれないが、この木の子孫を残してあげれば、命はつながっていくことになる。
松ぼっくりを拾い始めました。
ところが、種の詰まった松ぼっくりは、ほとんど見つかりません。
そのかわりに、こんなものが、沢山落ちていました。
これは、実は、ニホンリスの食べかすです。
松ぼっくりのかさの部分をかじりとって、中の
種子を食べるのです。
その形から「エビフライ」などと呼ばれ、環境教育
の教材としてよく使われます。
アカマツは、パイオニア種として貧困な土地に真っ先に入り込み、枯葉や枝を落として土地を豊かにするだけではなく、リスなどの小動物にも貴重な食料を提供しているのですね。
ここでは、無理かとあきらめかけていると、切り株の上にちょこんと立派な松ぼっくりが。
しかもぎっしりと種がつまっています。これは、きっと、リス達が、「この種で、この松の子孫を育ててくださいね。」と、置いていってくれたに違いない、と大切に持って帰りました。
マツカサの間からはこんな種が。
ちょうど、カエデの種の半分の形をしています。風に乗って、クルクルと回転しながら飛んでいくようです。
もう少し季節が良くなったら、ビニールポットに播いて、苗を育てます。
アカマツの苗を育てるのは初めてなので、一から勉強しなければなりませんが、あの大好きなアカマツの為に、可愛いリス達の為に、絶対に成功させなければなりません。
何年かかるかわかりませんが、あの美しく懐かしい松林を必ず復元します。
その日まで、私は、生きていられるでしょうか。
この目でその松林を見ることはできないかもしれませんね。
でもいいんです。
大好きなあの松の子供もその林の中で、青く美しい枝をのびのびと広げ、風にそよがせて、人々の心を癒してくれるでしょうし、アカマツの種が大好きな可愛いリス達も、きっと喜んでくれるに違いないのですから。
koga