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モミの木の受難(森のおじさんシリーズ第三弾)

いつもいい加減なおじさんにも律儀なところがある。
山の神様を祭る祠の傍らを通り過ぎる時は、必ず祠の前に立ち、 2拝2拍手1拝の拝礼を行いそれから山に入る。
その日もこの拝礼を行ってから、雨上がり直後の山に分け入った。

やや急な登り口を過ぎなだらかな尾根筋に達した時、ヒノキ林の木漏れ日に地面から立ち昇る水蒸気が浮かび上がり、ゆらゆらと輝く幻想的な文様を作り上げていた。
林内にあやなす光の輪舞を眺め、立ち込めている水蒸気と満ち満ちているフィトンチッドを胸一杯吸い込み、おじさんはこれ以上の幸せは無いという笑顔を見せた。

その刹那、おじさんは道端に生えているモミの木の5年生位の稚樹を一本抜き捨てた。
さらに道から4~5メートル林内に踏み込み、もう少し大きめな稚樹を引き抜こうとした。
手で抜き取ることができないので、左足で苗の中ほどを踏み、緩やかに撓んだところを右足で数回蹴った。苗の根が次第に浮き上がってきたところを、最後は手で抜いて放り捨てた。

その一部始終を見ていたヒノキが、たまらずに声を掛けてきた。
「おじさん、いくらなんでもあんまりだよ。それじゃあモミの木が可哀そうだよ。」

「今はお前さんたちより背が低くて、おとなしいが、20年もしないうちに立場が逆転するよ。そうならないように、小さい苗だから手を打ったんだ、感謝されてこそ非難なんかされたくないね。」
そう言い捨てると、おじさんは尾根道をさらに進んだ。

モミの葉

しばらく進むと、静まり返っている林の中の

山道にすでに茶色く変色し始めたモミの葉が

大量に散らばり、その周辺の空気も沈み切って

いるところがあった。

 



おじさんは、その辺の長老である境界木のヒノキを見上げるようにして、この理由を聞いた。


「見てごらんよ、あのモミに雷が落ちたんだ。 なんとか持ちこたえそうだったんだけど、結局、だめだったね。 突然、葉を全部振りまいてさ、一巻の終り。」
もみの木1


モミの木に近づいて見上げると、幹の中ほどから上にかけて斜めに樹皮が捲り上がり、鋭く削がれたような傷跡があった。

 

 

 

 

もみの木2



その傷跡を眺めて雷撃の凄さを想像していると、モミに南側を塞がれていたヒノキが声を上げた。

「こいつが小さかった頃は、おとなしくてさ、近所の付き合いなんぞもへらへらしてやがってね。ところがさ、いつの頃からか急に背がでかくなりやがって。

背がでかくなった途端、態度まででかくしやがって、それからは往生したんだよ、こいつには。」

「確かに憎まれっ子だったけど、急に死なれちゃうとかわいそうでね。」

「悪く言うのも少なくないけど、やっぱり仲間内のことだから悲しむのも居るよね。」

「あたしなんか、一緒に痺れたからね。大雨の夜だったけど、突然目の前が昼間のようになった途端。ビリビリっと来たのよ。そりゃー、凄かったもんね。」


最後に長老が、
「おじさん、当分の間、このモミの子供らを引き抜くのは止めにしないか。・・・・
背の高いおれの身代わりになったとも言えるし、少なくとも、仲間へ哀悼の気持ちを表したい・・・。」g>


おじさん「・・・・・・・・・」

おじさんは、その後もせっせとモミの苗を引き抜いて歩いていました。

ogura

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ケヤキの旅立ち(森のおじさんシリーズ第2弾)

ある日、おじさんは山に入る前に、こぶしの杜にある苗床を見に行った。

こぶしの森の苗床

そこには、イロハモミジの稚樹に雑じって、あのアカシデが仮植えされていた。

あの日、懸命に身を震わせた6枚の葉はすでに落葉していたが、幹の瑞々しさは失われていなかった。
<無事に冬を越しそうだな。>おじさんはそう思った。 

 

こぶしの杜から離れて、ある沢筋に沿って山に入り、幹の眼通りが2メートルを超えそうな大きなケヤキの脇を通り抜けようとすると・・・

 

「おじさん、おじさん僕たちこれから旅行だよ!」 「おじさん、僕たち旅にでるんだ!」 いくつものかわいい声が降ってきた。 

ケヤキおじさんがケヤキを見上げると、ケヤキの木の落葉はすでに終わっていたが、茶色く変色しているがしっかりと枝についた葉と、その葉柄の近くに張り付く無数の種が目に入った。  
 

 

 

 

 「そろそろ木枯らしが吹く頃か。おまえさんたちの旅立ちだな。草原とか落葉樹の森とか、いいところを選んで、舞い降りろよ。くれぐれも達者でな。」

 ケヤキの種子

「でも、僕たちの旅行は、風任せだから。どこへ行くか分からないよ」とにぎやかである。

 

 
すると、ケヤキが会話に入ってきた。


ケヤキ:「ところでの、お若いの、おまえさんはそろそろ前期高齢者か?」


おじさん:「何の、まだまだよ。この健脚ぶりをよく見てくれ。」 

 

ケヤキ:「そうか、するとお前さんが鼻をたらしていた頃、初めての子供たちを旅に出した。」


おじさん:「へー、すると樹齢およそ百年か、人間なら百歳は珍しいが、ケヤキの木じゃあ、

      まだこれからだな。それにしても、あなた方の種の蒔き方は凄まじいよ! 

      種がついた小枝を、葉がついたまま枯らして、それが木枯らしの力で舞い上がる。

      身を切らせて、種をまく。」

  
ケヤキ:「何の、ご先祖様が、能天気だっただけよ。カエデやモミジのように種に

     洗練された羽根があれば、何も身を切ることはない。

     それよりも、この間、わしの枝で羽を休めたカケスが言っておった。

     わしによく似たケヤキが、この南にある小学校の裏山に生えていると。」



おじさん:「南にある小学校までは、およそ2キロ。小学校から多摩川までがおよそ1キロ。

      多摩川の崖には、おまえさんのようなケヤキが生えている。

      ただ、カケスが言ってたように俺には似ている、似ていないの区別はわからない。」

 

ケヤキ:「そりゃー、わしの子供のそのまた子供、人間でいえば孫かも知れんな。」



おじさん:「すると、お前さんの播いた種と、おまえさんの孫の種が同じ場所で、

      同時に発芽することもあるのかい?」

ケヤキ:「そんなややこしいこと、わしにもわからない。それこそ風任せよ」  


12月23日夜半から24日未明にかけて青梅の杜には、台風を思わせるような強い風が吹き荒れた。


ケヤキの木は清々しいように身ぎれいにして、春を迎えるまでの長い眠りに入っていた。

ogura

おじさん、ボクを連れてって(森のおじさんシリーズ第一弾)

12月4日、おじさんは、青梅の杜の定例パトロールに出た。
木の葉パン工房の前を進み、黒仁田林道に入り、
扇場の手前の谷の入り口からパトロールを始めた。
それから更に、黒仁田林道を進み通称二本スギで車を止め、
谷に沿った歩道を尾根まで、一気に登る。
途中の分岐では、迷わずに東へ向かった。
尾根に出て、二つの小さな頂を越え、扇場を望める尾根の先端まで歩き、
杜の中に異常がないことを確認する。

尾根筋を辿る戻り道の両側は、間伐が行き届きよく手入れのされたヒノキ林が広がり、
その林床には、黄色や紅色に変色したコアジサイの群落やクロモジなどが、
冬の日差しを浴びて目に眩しい。

樹齢80年ほどの境界木とヒノキ林の間を抜けて戻り道を急ごうとしたとき、それが起こった。

「おじさん、僕を連れてって」と小さな声 。あたりを見回しても、人一人いない。


おじさんは、「前期高齢者に仲間入り間近の身にとって、幻聴が始まったかな・・・・・」と考えつつ

足早に通り過ぎようとした。

するとまた、か細い声が。


「おじさん、僕を連れてって」
よくよく辺りを見回すとヒノキ林の縁に、黄色く変色した5・6枚の葉をつけた小さなアカシデの稚樹が、

懸命におじさんを見上げていた。アカシデ


 



そして
「下のヒノキ林に葉っぱがいっぱい茂っちゃうと、お日さまが僕に当たらなくなる。

そうなると僕はもうおしまい。だから僕を連れてって」


おじさんは答えた。
「小さいの、わしは、モミジ専門のシードハンターだ。おまえさんを連れていくわけにはいかないのさ。」


すると、その小さなアカシデは風が全くないのに、まるで女性がいやいやをするように小さく震えた。

風もないのに木が震える様を見たおじさんは、自分の背筋が凍り付きそうになるのを感じた。
でもそれは、おじさんの勘違いだった。

おじさんが踏みつけているヒノキの枯れ枝が、小さなアカシデに触れていて、

彼の微妙な体重の動きと連動した震えだった。


おじさんは、その枯れ枝を拾い上げながら、アカシデに尋ねた。
「おい、小さいの、おまえさん、どこへ行きたい。」
「僕、南のほうに、こぶしの杜と呼ばれる森があるって聞いたことがあるんだ。

素敵な森で、そこには僕の仲間がたくさんいるって聞いたよ。」

こぶしの森

 

 
おじさんは、拾い上げたヒノキの枯れ枝を切り株の上に立てかけて、

鉈を使ってヘラ状に作り上げ、アカシデの根の周りに順に差し込んだ。

最後に差し込んだところで、ヘラを地面に向けて順々に傾けると、

アカシデの稚樹は地面から離れた。

 おじさんは、左掌の中に稚樹の根を大切そうに掴むと麓へ向かって山を降り始めた。

こぶしの森

・・・・・つづく 

 ogura

 

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